冬のスポーツと観光を楽しんだ後は、舌で冬の名物を味わおう。冬においしい北京のグルメといえば、やはり羊肉のしゃぶしゃぶ「涮羊肉(シュワンヤンロウ)」だろう。地下鉄の鼓楼大街駅から少し北に行ったところにある金生隆は、清の光緒19年(1893年)に開業した老舗。羊肉しゃぶしゃぶと、羊や牛のモツをゆでた「爆肚(バオドゥ)」の名店だ。
涮羊肉の起源には諸説あるが、一番有名なのは、元の世祖フビライが行軍の途中で発明したという説だ。行軍と敵陣の攻撃への対応の速度を上げるために、フビライがすぐに火が通るよう羊肉を薄く切らせ、お湯でゆでて塩をつけて食べたところ美味しかったため、それが元朝の人々の食卓に上るようになったと伝わっている。
冬になると特に恋しくなる涮羊肉(撮影?勝又あや子)
金生隆の羊肉はすべて生。しかも部位ごとに提供し、その種類は8種類にも上る。4代目として店の経営を取り仕切る馮夢涛さんのオススメは、あばら肉の「羊筋肉」、背中の肉の「羊上脳」、後ろ腿の内側の「黄瓜条」だ。野菜など他の具材は入れず、まずは肉からしゃぶしゃぶするのが「涮羊肉の掟」。馮さんによると、まずは脂身の多い羊筋肉などから食べ始めるといいという。四川風の激辛火鍋などと違って、涮羊肉のスープはお湯にネギや生姜などを入れただけ。お肉からの油がよくまわったところで野菜を食べたほうが美味しく食べられるのだという。そして調理法がシンプルなだけに、食材の鮮度とタレが各店舗のこだわりどころだ。
冬場になると、羊肉を食べて滋養をつけようと思う人が増えるのか、涮羊肉の店には多くの客が詰めかける。冷え込む冬の夜に、涮羊肉店の窓が店内の蒸気で曇る光景は北京の冬を代表する光景の一つだ。
涮羊肉店の窓が湯気で曇る光景は北京の冬の風物詩の一つ(撮影?勝又あや子)
什刹海で氷上自転車に乗り、かつて北京の人々に時を告げた鐘楼から北京の雪景色を眺め、清末から続く老舗で羊肉しゃぶしゃぶに舌鼓。(文?勝又あや子)